エッグドロップ甲子園2012講評
エッグドロップ甲子園。割れやすい卵を守る真剣勝負!
ではありますが、タマゴって本当に割れやすいものなのでしょうか。
「タマゴを守るためにタマゴ型構造をプロテクターに組み込みました」と発想したチームがありました。私たちの生活体験や常識の中で捉えている卵は割れやすいイメージですが、自然の中で、限られた素材(体内資源)で中身を守ることを考えた場合、非常によくできている構造物なのではないでしょうか。殻の構造にも最大限の工夫がしてあるかもしれませんね。でも全く割れないのも困りますよね。視点や尺度を変えてものを見ることは、単純に楽しいことですし、さらには独創性にもつながりそうです。
今回のエッグドロップ甲子園2012には、48チーム、144名の参加があり、タマゴを守ることに成功したのは20チームでした。空気抵抗を得て落下速度を押さえる方向と、衝撃をさまざまな構造で和らげてタマゴを守る方向、またその組み合わせなどでエッグプロテクターが作られていました。条件が一緒なので、ある程度似たような形になるものなのかもしれません。たとえばタマゴにしても、鳥のタマゴだって魚のタマゴだって示し合わせたように丸いです。それでも、今回いくつか予想をしなかった形のプロテクターがありました。普通であることを避けて、考えぬいて作られたものと、それからすこし言い方は悪いのですが、遊びや洒落の延長で生まれただろうものと。これらこそ人間の知性?かもしれません。どちらを目指すのかはそれぞれ次第ですが、おそらくどちらも重要です。
今回、私もプロテクターの制作に参加しました。複数の円錐の頂点をへこませてタマゴをとり囲むプランを考え、会場に向かいました。マイルール(自分がヨリ楽しむための方法ですね。)で実験は潔しとせず、実制作は本番一発です。準備する時間が無かったというのは内緒です。さて、運営チームの山本さんの手を借りて、制作を始めましたがなかなか思うようにいきません。思うようにいかないだろうと想像していた以上にうまくいかないものです。黒板に向かってきれいに配置されている階段教室の講義机は、多くの学生を収容できるようにコンパクトに機能的に配置されていますが、天板が手前に傾斜していて、切ったり貼ったりする作業をするには狭い。人と向き合って作業することも通路がせまく難しい上に、タマゴは傾斜を転がって、はやくもプロテクターなしの落下実験をはじめようとします。環境はおろそかにできません。そして不満を言っても始まりません。現実はこういうもの。参加したみなさんはきっと制作環境やチームワークをいろいろ工夫されたのでしょう。さて、一部の道具の使用は認められていました。私は情報収集に失敗して手ぶらですが、マイルールで道具は使わないと決めていたので動じません。
エッグドロップの時間になりました。落下の仕方もさまざまです。パラシュート型でふんわり流れながら降りてくるもの、空気をうけながらも、まっすぐに降りてくるもの。空気抵抗は捨てて武骨に一直線に地面に向き合うもの。ほんのわずかな時間ですが、まるで人生模様のようです。空中でタマゴが勢いよく飛び出てしまうチームもありましたし、タマゴは飛び出たけれどわれなかったチームもありました。もう一度見たいと思わせるほど魅力的な落下がありました。目撃された皆さんの目に焼き付いているシーンもあると思います。
落下実験を繰り返してきたチームは成功率が高かったようです。緻密な計算をもとにイマジナリーの型紙を作ってきたチームは、その努力がちゃんと結果に表れたと思います。知識や技術、経験をためることはとても重要です。
一方で、楽しむことも同じくらい、あるいはそれ以上に大事かもしれません。楽しみ方の探求についてもぜひ創造性を発揮し、そして見つけた楽しみ方を周りと共有してください。そしてさらにもう一つ。自分たちの発想やアイデアのもとになった出来事、体験、知識について少し思いを巡らせてみてください。誰かに教えてもらった良く揚がる凧のコツなのか、本を読んでおぼえていたことなのか、インターネットで調べたものなのか。それから、はさみが使えることも実は当たり前ではないのですね。みなさんもう忘れてしまったかもしれませんが、はさみをはじめて使ったときの記憶はありますか。そういうことを思い出して、自分の行為を見直すと結構色々なことが(ひょっとしたら自分の未来も?)見えてきます。でも、制作中は時間が無くて無理ですよ。
さて最後にもうひとつ。
なぜエッグドロップをするのでしょう。
「優勝を狙う」ってのもいいですし、「一番美しい落ち方を探求する」も「今年は去年よりも楽しく取り組む」もいいですね。また次も楽しみです。
さて、最後に運営や協力の方に感謝です。連れてきていただいた先生にも感謝しましょう。
山下俊介 京都大学 助教
*エッグドロップ及びエッグドロップ甲子園は特定非営利活動法人ものづくりキッズ基金の登録商標です。
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